1999年に映画化されたこの小説は、高倉健さん演じる主人公「佐藤乙松」の身に起こる、人生最後の奇跡を描いた作品である。
今更ここにあらすじを書くまでもない程、有名な本作品。短編集は140万部を売り上げるベストセラーとなり、映画作品も「第23回日本アカデミー賞」を総ナメする、歴史に残る作品となった。
健さんほど、鉄道員らしい「ぽっぽや」は他にいないと思えるほどの名演で、すっぴーは何度観ても涙を流してしまうのである。
3年前の2015年秋、作品の舞台「幌舞駅」のロケ地となった根室本線の「幾寅駅」を訪ねた。
舞台となった根室本線「幾寅(いくとら)駅」
雄大な景色の続く、北海道空知郡南富良野町にある幾寅駅。作品中の「幌舞駅」は幌舞線の終端駅という設定であったが、幾寅駅は終端駅ではない。そのため、映画撮影時は車止めなどを設置し終端駅に見えるようにした模様。
駅は一面一線の寂しい駅であるが、地元住民の方々の協力により大変綺麗に手入れされている。
表玄関の駅名板は幾寅駅ではなく「幌舞駅」。
駅前には綺麗に並ぶ花壇と、可愛らしい郵便ポストがある。19時ごろ、夜の帳が下りてしまった後に訪れたため街灯も少なく辺りは真っ暗である。
駅舎内は映画で見たそのものである。今にも健さんが姿を現しそう。出札窓口の奥に続く住居スペースは、日中は公開されている。夜間は残念ながら扉とカーテンが閉まっており、中の様子をうかがうことは出来なかった。
駅舎から改札を通り、階段を登ってホームに上がる。「ほろまい」のホーロー駅名板はそのまま残されている。
北海道の田舎町の暗闇に溶け込む寂しい駅とプラットホーム。心が締め付けられる思い。何故。
健さん、戻ってきてください。
駅前には「キハ12形」気動車とロケセットを展示
駅前にはロケセットが一部展示されている。
だるま食堂、ひらた理容店、井口商店と、この映画の準主役と言っても過言ではない「キハ12形」気動車である。
国鉄色に塗られた朱色のキハ12形気動車。車体の1/3だけを切り取った形で保存されている。
作中では「キハ12形」として活躍したが、実はこの車両は「キハ40形」を改造したものである。
前面窓をパノラミックウィンドウから平面窓にし、前照灯を移設。側面窓も上部をはめ殺しにする等、非常に大掛かりな改造がされている。
部分廃線が決定した根室本線
2016年8月、北海道に上陸した台風の被害により、根室本線の東鹿越〜新得間が運休となった。同区間内にある幾寅駅には列車が走らなくなってしまったのだ。
復旧には莫大な費用が必要な上、JR北海道の経営難も重なり「自社単独で維持できない路線」として、根室本線の富良野〜新得間は廃線が決定した。この他にも留萌線や夕張支線、札沼線及び日高線の一部区間も廃線となる。廃線を国と北海道は容認しているが、一部自治体との協議が難航しているようだ。
輸送密度が200人未満と、極端に利用の少ない富良野〜新得間。作品中で廃線となった「幌舞線」だが、とうとう現実のものとなってしまった。
収益が見込めないのであれば、廃線もやむなしと言ったところだが、幌舞駅だけは、映画「鉄道員(ぽっぽや)」を後世に伝えるものとして保存されることを切に願う。
完